旅立ちは危機一髪

オーロラを見たい。卒業旅行に何処行きたいと両親が妹に聞いたらそんなことを言っていたらしい。そんなわけで、オーロラツアーを親達は申し込んだのだが、3人だと半端なので、どうかと誘われた。うぅむ。5泊7日とはちと長い。そんなに休んで平気だろうか。しばらく回答は保留していたのだが、休んでも問題なさそうなので、行くことにした。12月の事である。

さて、出発の前日。暇だと思っていた職場はかなり忙しいことになっており、残業も久しぶりに遅くまでしていた。ただ、前もって休むことは言ってあるので休めそうではある。仕事を残して行けなかった、などとなるのは洒落になれないので30％割増（当人比）ぐらいで頑張った結果とりあえずは行けそうである。

だが、外を見ると出発出来るか心配になってきた。そう雪である。先週もかなりの大雪となり、ちょうど実家に帰っていたのだが、帰れなくなり（車のタイヤが空回りするなんて！）、泊まり、翌日雪かきを手伝わされてから帰ったのだった。

先週の大雪を思わせるような雪の振りぶりを見るとこれは行けるのかしらと不安になる。実際、家に帰宅するだけでも大変だった。雪はまだ止む気配はない。天気予報だと、深夜には止むそうだが、果たして行けるのか。実家から出発するので、実家に既に居たのだが、不安に思いながら布団に入った。

そして、すぐに叩き起こされた。出発を早めることにしたためで、深夜０時に家を出た。家の周りはすでに雪だらけであり、先週の有り様を思い出しヒヤリとする。何とか主要道路に車は出せたが、そこも雪深い。成田空港へ果たしてたどり着けるのだろうか。気が気でないが、妹は既に寝ていた。

お前はのび太くんか。

もっとも、この何処でも寝れる特技というのを、旅の随所で見せつけられることになる。

天候は、途中で雪が雨に代わり、高速に入る頃には除雪もほぼ終わっていた。その代わり大雨が続く。チェーン規制が出ていたため、そのまま高速を進んでいたが、途中でチェーンが外れてしまった。ずぶ濡れになりながらチェーンを張る父。特に手伝いもせず、飛行機は飛ぶのだろうかなどと考えていた自分は不肖の息子ではある。

早めに家を出たため、成田に行くには早過ぎる。そこで酒々井でしばし休憩となった。寝ようかと思ったがどうせ時差で寝れなくなるぐらいだったら起きてようと思い、男子フィギュアを見ていた。羽生選手が金となったのを見届けて成田へと向かった。

成田空港へ着いたが、椅子があまり見当たらない。あっても大抵誰かが寝ていた。シートを敷いて床で寝ている人まで居る。わざわざ持参したのだろうか？　2席空いていたので、座ってしばし寝た（落ちたというのが正しい）。

さて、飛行機は無事出発するらしい。しかし、集合時間が迫っているのに、中々妹がトイレから帰ってこない。どうしたのか。まさか迷ったのか、それとも誘拐か！などと変な方向に思考が向かい始めた頃、ようやく来たのでほっとした。やれやれ。集団行動は疲れる。一方、父は機内食がいつ出るかを気にしていた。

キルナも雪景色

これから向かうキルナは、スウェーデン北部にある、人口が2万人程度という小さな街である。だが、成田から直通便が出ているので乗り継ぎ無しで行ける。予定表を見ると、12:30に出発し、14:35分に着くとある。何だ2時間の旅か。……まあ、もちろんそんなわけはない。時差が-7時間なので、9時間の長旅である。だから5泊7日の旅なのだ。

さて、飛行機の座席は当然エコノミーで、家族4人一列となる席だったが、席はポツポツと空いていたので（前日の大雪で成田までこれなかった人が結構居たのだろう）母と妹は窓側へと移った。離陸の時は毎度のことながら緊張する。離陸が終わっても何事も無くほっと一息付いた。

札幌を追加した頃、14時頃だったが、（父待望の）機内食が出た。サラダにマッシュポテトとハッシュドビーフ等。ビールかワインをもらえたのでビールをもらった（両方もらう人もいたけど）。味は普通のものである。サプライズを上げるとしたら、豆腐かと思っていたのが、チーズケーキだったぐらいだろうか。その後は、特にやることもないので、備え付けのTVで映画を見たが、字幕がないのでよくわからない。音楽を聞いていたら眠くなってきたのでウトウトとそのまま寝た。

その4時間後ぐらいに、再び機内食が出た。暗くなっていたのが明るくなったので目が覚めた。今度はおにぎりかサンドイッチを選ぶ形だったのでサンドイッチにした。コーヒーについてくるミルクの入れ物が三角形だったが珍しい。客室乗務員のティ〜、Ocha〜という掛け声が何だか耳に残る。そういえば、客室乗務員は女性というイメージがあったのだが、普通に男性も仕事していた。日本だけなのだろうか。

今飛んでいる場所は北極海らしい。窓から海を見たら凍っていた。ホッキョクグマは居ない。まあ、居ても見えないだろうが。再び、何もやることがない時間帯に入ったので、再び睡眠時間となった。が、そんなに眠くないので、エコノミー症候群にならないように時々足を動かしつつ、予めダウンロードしておいたWeb小説などを見て時間を潰した。父、母、妹はみんな寝ている。時差ボケ大丈夫なのだろうか。

2時間半程後に、また機内食が出た。内容からして朝食だろう。何だか機内食の事ばかり書いている気がする。内容はパンとサラダと飲み物と言ったところ。その2時間後にようやくキルナに着いた。

外に出ると空港は雪だらけだった。滑走路も雪で見えない。よく着陸出来たものである。だが歩いていても滑る感じはないので、ここではこれが当たり前なのだろう。

さて、これから入国手続きである。機内で覚えた英語（Sightseeingと5days：目的と滞在日数）が役に立つときが来たぜ！と息巻いたが、特に訪ねられることはなかった。

何せ、手続きを行ったのは格納庫の中である。ロビーは一応あるっぽいが、そこまで行かなかった。にこやかに挨拶した後、ポンっとビザを押されて手続きは完了した。ちょっと拍子抜けだが、地方空港ってこんなものだろうか。まあ、乗客は全員ツアー客だったからかもしれないが。

空港からは、バスでホテルに向かう。ツアーだから手配要らずで楽なものである。ただ、外の風景を見ても、そういえば家出るときも同じような風景だったなぁとしみじみと思ってしまい、ワァオ！雪だらけだ！というような外国に来たぜ的なテンションアップとはならなかった。寒さもそんなでもないし（厚着しているから当然といえば当然だけど）。

ホテルへ向かう途中、ショートメッセージがiPhoneへと届いた。ここは海外定額サービスが使える場所だという通知である。おかげで使いすぎて料金が天井知らずということにはならないのが有難い。通話はほとんどしないが、データ通信（主に地図）を利用するからだ。ちなみに、ここスゥエーデンだけでなく、後で行くノルウェーやコペンハーゲンも対応していた。

ホテル前散策

ホテルに着いたが、空は曇り模様、時々雪という有り様である。一応、オーロラチャンスな日であるのだが、オーロラなど出そうにもない。

部屋に着いて荷解きをした後、父は疲れていたのか、横になって、いびきまでかきはじめた。ちょっと心配になってしまったが、普通に休んでいただけらしい。母が起こしたら普通に起きたので。エコノミー症候群でも発症したのかとちょっとドキドキしてしまった。

さて、今日は夕食は出ないので、外に出た。ホテルの前ではバザーをやっていた。こんな天気で？と思ったが、こっちの人にとっては普通のことなのかもしれない。商品には雪が被っていたりした。値段はやや高めだ。もっとも、スウェーデンでは大概高めではある。ドーナツや長細い飴などお菓子が多かった。

街の方に出たが、人通りはそんなに多くない。ただ、お年寄りがソリを押して歩いているのが印象的だった。日本でもカートを押している人をよく見かけるが、雪国なので、ソリなのだろう。犬が道端で繋がれていたが、何だかモコモコしている。これも雪国仕様らしい。しかし、繋がれている姿は何とも不貞腐れているようにも見える。飼い主は何処にいるのだろう。

さて、夕食だが、何処かにレストランとかないものかと探したが、特にこれだというものがなく（中華料理店などもあったが、スウェーデンまで来てという思いがある）、結局のところハンバーガ屋に落ち着いた。ただ、サイズが結構でかい。肉がパンからはみ出している。肉が一回り大きい。また、飲み物は、容器を渡されただけだった。自分で入れるらしい。氷を入れなかったので、波々と入れられた。大きさといい、何とも豪快ではある。

夕食後は、まだまだ時間がある（まだ18時だ）ので、妹と共にちょっと散策へと出かけた。iPhoneのMapはきちんと機能しているので迷子になることもない。また、夜中に歩けない程治安が悪いことでもない。というか、歩いている人は皆無だった。

ホテルの周りは、マンションやアパートが多い。だが、赤い壁に白い窓枠と如何にもスウェーデンハウスという感じがする。歩道を歩いているつもりではあるが、雪が積もっているのでちゃんと歩いているか自信はない。バス停も途中で見かけたが、雪で埋もれていて、かろうじて時刻表が出ているくらいである。特に目当てもなく適当に歩いていると、現地の人から話しかけられたが応えられなかった。英語じゃないのでさっぱりわからない。もっとも英語でもさっぱりわからないと思うが。

ホテルの周りをぐるりと周った後は、ホテル前にあった氷も門や椅子などを眺めたり、雪製の巨大滑り台を滑ったりしてしばし童心に帰った。……振り返ればいい大人がとも思うが、まあこれも旅である。

キルナの朝

翌朝は、目覚めが良かった。ぐっすり眠れたためだろう。前日は、飛行機の中ではあまり寝なかったため徹夜状態に近かった。もっとも、おかげで時差ボケが出ることはない。仕事で夜勤とか徹夜とかたまにあるので経験が役に立ったのだろう……なんて言えるのか。夜中は、外人が（もっとも自分達が外人ではあるが）騒いでいたこともあったらしいのだが、まったく気が付かなかった。父はサウナに行ったらしい。先に入っていた若者からやり方などを聞いたとか言っていた。中々チャレンジャーである。

外を見るとまだ雪が降っていた。どうやら夜中まで降るようである。窓から外を見ると、遠くの方でとても長い貨物列車が止まっているのが見えた。キルナは鉱山の街であるらしく、掘った鉄鉱石を列車で運ぶそうである。夜中は、何やら外が光っていたので、一瞬オーロラと勘違いしてしまったが、どうやらホテルの向かい側に見える大きな山が鉱山のようである。また、凍った湖の先には大きな風力発電発電機が見えた。

さて、朝食である。バイキング方式であったが、ハムの種類がいくつもあった。パン類もである。ただ、ご飯はなかった。オートミールっぽいものはあったが、おかゆの気分ではないので辞めた。後、ワッフル製造機みたいなものもあった。タネも置いてあったので自分で焼けということなのだろうか。ちょっと気になったが結局やらなかった。食べ物はいつもならたらふく取るところだが、この後バスの移動なのでやや控えめにしておいた。

部屋の中は朝だというのに暗い。まだ日出の時刻ではないのだ。まあ、こちらの人は控えめの照明が好みだということもある。なるほど、キャンドルがよく合う。